北ホラント半島の先端にあるデン・ヘルダーの公共図書館(写真1その前景)が,2017年にオランダのベスト・ライブラリに選ばれ,2018年にはIFLAのPublic Library of the Yearを授与された。これといった産業もない,海軍基地だけの小さな自治体のつくった図書館がなぜ選ばれたか。今回訪ね,プロジェクト・コーディネータのJacinta Krimpさんにいきさつを伺い,納得がいった。
キーワードとなるのは,サステナビリティ(持続可能性)のようだ。
第二次世界大戦中,この地域はもっとも激しかったといわれるロッテルダム以上にドイツによる爆撃をうけた。デン・ヘルダーには,昔の建築がほとんど存在しない。そのような状況で,たまたま残ったこの学校7の建物を地域の遺産として継承し,その骨組みを図書館に再利用することによって経費節減もできたという。写真2では,屋根や壁が閲覧室のなかに見られる。教室や玄関,トイレなど様々な部分を図書館の機能に埋め込み,人々の記憶を留めている。
また,図書館運営にあたっているのは,図書館法人*KopGroep**である。四つの自治体にまたがる図書館システム(18館)を管理していて,この「学校7」はその本館にあたる。有給雇用者は総勢63名,ただし,自治体の財政のなかで図書館が継続的にサービスを展開するため,ボランティア260人の協力を得ている。人々の集会だけでなく,結婚式などにも提供し,開放的な運営のもと,法人と自治体との関係は良好だという。
前景はかわり映えしないが,一歩なかへ入ると,木材を多く使った内装とカラーリングにより落ち着いた佇まいで,家具デザインもとてもよい。デン・ヘルダーは,戦禍のあと長らく灰色の街であったが,近年緑も増えた。その街の光景を,書斎空間の窓にしている(写真3)。
住民みなが通った小学校の再利用による公共図書館が,人々の学びやくらしを支援し記憶を分かちコミュニティをつないでいる。(永田治樹)
* オランダの図書館法人については拙著『公共図書館を育てる』を参照
** https://www.kopgroepbibliotheken.nl