Library Compass 第1回
改正著作権法

■「改正著作権法」公布,図書館資料のメール送信は2年以内に施行

図書館関係の権利制限規定の見直しを含む「著作権法の一部を改正する法律案」が,6月2日に公布された。

昨年コロナ禍の図書館休館によってインターネットを通じた図書館資料へのアクセス・ニーズが顕在化し,「知的財産推進計画 2020」(2020.5.27)において,短期的に結論を得るべき課題として明記されるに至った。その結果「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」が検討したものが,文化審議会著作権分科会法制度小委員会の中間まとめとして公表され,パブリックコメントを経て,早くも2021年5月末の衆参本会議において可決成立したものである。図書館関係の制度改正は次のとおり。

(1)国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信は,事前登録した利用者に直接データを送信できるようにする。公布後1年以内に施行

(2)図書館等による図書館資料は著作物の一部をメールなどで送信することができるようにする。公布後2年以内に施行

上記(2)については,補償金の支払いが前提となり,図書館の設置者が権利者に支払うが,実態上,補償金は基本的に利用者(受益者)が図書館等に支払うことを想定している。補償金の徴収・分配は指定管理団体が一括しておこない,個別送信ごとに課金する。保障金額は権利者の逸失利益を補填するだけの金額とする。また,権利者保護のため次の要件が設定される。

①具体的な解釈・運用は,文化庁の関与の下で関係者によるガイドラインを 作成する。

②利用者の事前登録(氏名・連絡先等)やコピーガード等の技術的措置を講ずることが求められる。

③責任者の配置,研修の実施,利用者情報の適切な管理,データの流失防止措置等の要件を満たす図書館等が実施できる。

■パブリックコメントに寄せられた図書館・出版関係団体の声

2020年12月4日から21日に行われた意見募集(パブリックコメント)には195件の意見が寄せられ,次のような意見があった。

・「著作物の一部分」要件を維持し,厳格な運用を望む。(日本印刷産業連合会)

・利用者のニーズにあわず,図書館現場で利用者からのクレームを受け運用に苦慮することがあるため,一部要件の取り扱いの見直しを求める。(東京学芸大学附属図書館)

・地方において行財政改革が進む中,新たな業務に伴う人員配置・経費負担は大きな課題であり,地域図書館での実施には,国による人的・物的管理体制を構築するための財政措置が不可欠。(福井県立図書館)

・送信形態として,ダウンロード・メール添付ではなく,ストリーミングなどの方法も検討すべき。(日本書籍出版協会ほか)

・電子メール等での送信サービスによって,権利者に被害が生じた場合,図書館への罰則・補償を強く求める。(日本電子書籍出版社協会)

・条文上で補償金の支払い主体を図書館の設置者とすることは是とするが,実質的な補償金の負担はサービス利用者に全額を転嫁すべき。このサービスを展開することによって,図書館の出版物購入費用が削減されるようなことがあってはならない。(日本書籍出版協会ほか)

・補償金の支払義務者を事実上利用者としてほしい。(日本図書館協会)

・特に学生(大学生・大学院生・研究生等)の費用負担に配慮した料金体系の設定を行うことを要望する。(図書館休館対策プロジェクト)

■ガイドラインやルール策定はこれから関係者間で協議

今改正は,顕著になったインターネットを通じた図書館資料へのアクセス・ニーズに迅速に対応している。運用上の詳細なルールはこれから幅広い関係者間で定められるが,施行日までに解決しなければならない課題はとても多い。著作者側は「コロナ禍を理由にした法改正ではなく,本来のデジタル化の必要性を理解した,充実した制度構築を迅速に進めるべき」と国民の知へのアクセス確保と権利者の利益保護に十分に配慮した制度設計を望んでいる。図書館にとっては,利用者への利便性向上が実現できる一方,作業上の負担に加え,権利者への補償金支払いというこれまでにない制度への対応が求められている。出版社側は,出版業界と図書館の協業関係のバランスに影響を及ぼすとしており,一部では強い警戒を示すむきもある。

このような状況から,これまで限られた当事者間で作成されてきた著作権法第31条の運用に関するガイドラインなどとは異なり,文化庁は,運用ルールやガイドラン作成に「文化庁の関与」を明確にしている。補償金の制度や課金の料金体系など複雑で幅広い関係者間の調整に対し,国が積極的な姿勢を示しているものと受け取ることができる。(磯部 ゆき江)



【参考資料】

1 文部科学省.著作権法の一部を改正する法律案(説明資料).“https://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_000013222_2.pdf”,(参照 2021-06-15).

2 文化審議会著作権分科会法制度小委員会.「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に関する意見募集の結果について.“https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r02_03/pdf/92766601_01.pdf”,(参照 2021-06-15).